障がい者と社会とをつなぐ橋渡しをしたい。

現在の「まる・リノべ」の活動を始められたきっかけは何ですか?

一番のきっかけは、子どもに障がいがあったことです。私には3人の子どもがいるのですが、2番目の子(長男10歳)が生後5か月のときに難治性てんかん「WEST症候群」を発症しました。発作は消失しましたが、重度の知的障害を抱えています。私にとっては、人生で初めての大きな試練でした。障害が残るとわかった頃は、インターネットでいろいろと検索しては、落ち込む日々。一方で、前を向いてポジティブに進んで行ける自分もイメージできていました。
ただ、現状とその自分像をどう埋めていけばいいのかがわからない、そんなモヤモヤとした感じでした。そんなあるとき、義母に、「私に育てられるかな」と弱音を吐いたことがあります。すると義母は、「あきちゃん、そこの通りのゴミ箱に捨ててきていいよ。こんなかわいい子、私がすぐに拾って、育てるよ」と言ってくれ、目が覚めました。
私が泣いていたら、この子は"かわいそうな子"になってしまう。この子といっしょに、笑って楽しく生きていこう、と、少しずつ思えるようになったのです。そして、つらいときこそユーモアを忘れちゃいけないなと、改めて感じたのでした。

障がい者支援の活動はすぐに始められたのですか?

いえ、活動を始めたのはつい最近です。息子は10歳になり、最近は言葉も話せるようになってきました。家族や療育園、支援学校の先生方、ヘルパーさんをはじめ、たくさんの人に支えられて、私たち家族はいま、とても幸せです。これまでの10年間、障がい者の方やそのご家族と交流するなかで、時間ができたら私も何か恩返しをしたいと思ってきました。障がい者の抱えるさまざまな問題を目の当たりにして、「何かしなければ」と使命感を感じていることも確かです。
そんなとき、偶然、大学時代の友人と再会しました。今から1年半ほど前のことです。彼女は以前、障がい者の働く作業所の商品をプロデュースし、成果を上げていました。ただ、本業が忙しく、そちらに手が回らないとのこと。私の現状を話すと、「やってみたらいいよ」と背中を押してくれました。ただし、「代表はあなたね」というオマケつきで…。

そして、「まる・リノべ」を立ち上げられたのですね。

"まあるい笑顔が集まる社会"をつくるためのリノベーションという意味で、「まる・リノべ」と名付けました。障がいのある人もない人も、どんな人でも、そこに存在しているだけで人の輪、社会の輪である"まる"の中に入っているんだよ、という意味も込めています。
以前に比べると、障がい者を取り巻く環境は改善されてきました。ノーマライゼーション(障がい者も健常者も互いに特別に区別されることなく、地域で共に社会生活を送ることが本来のあるべき姿だという社会理念)への取り組みが広がり、法律や制度も整ってきましたが、やはりまだ、障がい者が十分に社会に溶け合って共生しているとは言えません。一方で、社会には何かしたいけれどどうすればいいかわからない、という人や企業もたくさんあります。
「まる・リノべ」を、障がい者と社会とをつなぐ橋渡し的な存在にしていきたいと考えています。

何かに本気で取り組み、やり遂げる経験を。

具体的にはどのような活動をされているのですか?

現在は、障がい者の働く作業所の商品の販路拡大を中心に活動を行っています。作業所で働く障がい者は、とても安い工賃しかもらえず、自立にはほど遠いという現実があります。彼らのつくる商品の良さを知ってもらい、買ってもらうため、商品開発や販路拡大など、商品を社会に送り出すサポートをしています。
たとえば、ピアノの発表会の後に配るちょっとしたクッキーのお仕事では、かわいくておいしいクッキー・もらってうれしいクッキーを届けるべく作業所と相談しながら商品作りに取り組んだりと、少しずつですが活動を広げています。作業所でつくる商品が社会に流通することで、障がい者への理解が深まり、一人ひとりみんな違っていいのだ、という"インクルーシブ社会(共生社会)"へもつながっていくと思います。

「まる・リノべ」の今後の展開について、お聞かせください。

牛建昭子さん

11月には農産物を販売するマルシェにブース出店をする予定です。これまでは、作業所や支援団体の視察などを中心に準備期間としていました。出店は初の取り組みなので、ワクワクしています。どのようなものが売れるのか、どうすれば売れるのか、売れない理由は何かなど、いろいろと見えてくると思います。それをまた、作業所へもフィードバックしたいと考えています。
私は、「まる・リノべ」の活動は、小さなことでいい、少しずつでいい、と思っています。ただし、長く続けることが大切です。「まる・リノべ」の活動を通して、障がい者が少しでも生きやすい社会の実現に貢献できればと思います。ぜひ手伝いたいと言ってくださる方もいるので、ゆくゆくは、NPO法人化できればいいなと思っています。

最後に、能開の後輩たちに、メッセージをお願いします。

子どもの頃に、何かに本気で取り組み、最後までやり遂げ、結果を出す、という経験をしてほしいと思います。必ずしも勉強でなくても構わないと思いますが、小中学生や高校生にとって、一番この経験を得やすいのは、受験勉強を通してなのではないかと思います。
本気でやり切ったあとには、大きな達成感が得られ、自信がつきます。「できるんだ」という自信は自己肯定感につながり、次へのステップが踏み出せると思うのです。また、社会に出て困難にぶち当たったときにも、この経験があれば、心折れずに乗り越えられると思います。
そして、もう一つ。つらいとき、苦しいときこそ、笑顔を忘れずに。その笑顔が、あなたを一歩も二歩も前に進めてくれるはずです。

貴重なお話をありがとうございました。

牛建さんインタビュー「こぼれ話」

インタビュー当日は、牛建さんが姫路本校でお世話になったという大原先生が来てくださり、当時の思い出話に花が咲きました。実は、高校受験前日に激励の電話をかけたというのは、この大原先生でした。「あれには笑ったなあ」と、大原先生も懐かしそうに目を細めていました。

教育理念 困難な時代を生き抜く力

ティエラコムは、創業期より「困難にたじろがない ひとりで勉強できる子に」を教育理念としてまいりました。
「学習塾」とは一線を画した「総合教育運動体」としての姿勢を貫き、子どもの成長の礎となる人間の生地を鍛える教育の実践こそが、私たちの使命であると考えます。

人が生きていく過程には、避けて通れない『困難』が待ち受けています。
それらを安易に回避したり、ストレスで押しつぶされたりといった現代人の忍耐力のなさが問題視されています。
私たちは、困難を乗り越えた先にある喜びを味わえるようあえて多くの試練を用意し、鍛え、励ますことが教育者の役割であると考えます。

私たちの教育目的は、時代やグローバル化の要請に応じて、有用な「人材」を育て社会へ送り出すことではありません。
試練を乗り越えた喜びとともに得た自信を年輪のように重ねた人間こそが、自身の幸せをかみしめ、より豊かな国や世界をつくっていくと確信しています。

ティエラコムの企業活動は、常に「変わらぬ理念」と「新たな挑戦」のもとにあります。

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