総合動物病院で獣医師として活躍し、社会人大学院生として専門性を磨く

勉強面では、生物の勉強をするという初志を貫いて、獣医学部に進学されたのですね。

獣医学部は人気があって競争率も高く、2年次の進学振り分けで獣医学部に進学することができなかったので、一度は農学部の土壌圏科学研究室に進みました。ちょうど一人旅で世界に目が向いていたこともあり、砂漠の緑化プロジェクトに携わるチャンスがあったからです。でも、どうしても獣医師になる夢を諦めきれず、卒業後に学士編入を決意しました。すぐに編入枠がなかったため、大学院に籍を置いて1年後に獣医学部3年に編入。実際は、獣医師になる勉強よりも、なってからの方がずっと大変だと感じています。獣医師の仕事は、常に最新情報を更新していかなければならいので、まさしく"一生勉強"です。

お勤めのフジタ動物病院についてご紹介ください。

外来、入院、検査、往診も行う総合動物病院です。地域に根付いた1次病院といわれるホームドクターの要素と、紹介のみ受け付ける大学病院などの2次病院との中間的役割を果たす「1.5次病院」として位置づけられます。16年前に5階建て自社ビルを建設し、昨年25周年を迎えました。全国に先がけて獣医歯科に力を入れ、大学病院から紹介で患者さんが訪れたり、口コミで青森県や兵庫県など遠方から来院されるほど認知度が高まってきました。

就職先として総合動物病院を選んだ理由は?

大学の獣医学部は外科、内科、放射線科など専門化されていますが、当院のように一般的な開業医は犬も猫もウサギも診察しますし、外科や内科などさまざまな症状に対する幅広い知識が求められます。いろいろな経験を積むことができて、やりがいもありそうだと思ったからです。中でも、当院は歯科に力を入れて特長を打ち出し、院長自ら獣医学会で講演を行い、著書も多数出版しているため、専門性のあるところで経験を積み、得意分野を身につけたくて就職を希望しました。

高橋香さん

現在のお仕事内容は?

9時から正午まで一般臨床の診察を行い、15時までがオペの時間で、15時から再び一般臨床の診察を行います。腫瘍摘出や骨折処置、避妊去勢手術などを無菌的に行うオペ室のほか、歯周外科手術を行う歯科室も完備しています。現在、私は歯科のオペに関わることの方が多いですが、獣医学部時代から専門を獣医歯学と決めていたわけではなく、恥ずかしながら、犬の歯が何本あるのか国家試験の勉強で初めて知りました。全国の獣医学部の中でも獣医歯科学の研究機関はまだ少ないため、その分野の専門性を磨いていきたいと考えています。

社会人大学院生として、歯科に関する研究を進めていらっしゃいますね。

就職して5年経った頃、社会人大学院生として東京医科歯科大学大学院に在籍し、歯周病学講座で歯学博士または学術博士の学位取得を目指し始めました。そこで得られたことを獣医師として臨床に活かすことが、私の使命だと考えています。現在、週2~3回は朝から大学院に通い、犬の歯周病原細菌の遺伝子の研究を続けています。それ以外の日は獣医師として勤務する"二束のわらじ"で奮闘中です。当初は4年間で取得予定でしたが、出産・子育ての期間を含め、2年延長して足掛け6年を目指しています。

キャリアアップを目指すモチベーションは、どこからくるのでしょうか。

「その分野のトップランナーにならずとも、セカンドやサードランナーとして優位な立場で活躍してほしい」という当院院長のアドバイスが自分を奮い立たせてくれました。いいポジションで誇りを持って仕事に取り組むためには、学位を得て専門性を身につけることが必要だと考えました。専門性を身につけたいという夢を実現するために必要なものは何か、そこにたどり着くために何をすべきかと突き詰めて考えることは、能開に通じるものがあるかもしれません。

獣医師・社会人大学院生・母という3つの顔を持って、精力的にご活躍ですね。

職場の上司が「どんどん得意分野を伸ばしなさい」と応援してくれて、寛容な理解に支えられていることに感謝しています。でも正直言えば、子育て、仕事、研究のすべてが中途半端に思えてしまいジレンマも抱えています。すべてを得ようとするのは欲張りかもしれませんが、自分で選んだことなので粘り強く両立させることが目下の課題です。大学時代に一人旅で得たのは、欲しいと望んだものはとりあえず手を伸ばして手に入れようとする行動力です。自分の足で踏み出せば無限の可能性があるという信念は、子どもにもしっかり伝えていきたいと思います。

飼い主さんの横に立つスタンスで信頼を得ることが診察の第一歩に

飼い主さんと接する上で大切にしているのは、どんなことですか。

ペットの具合が悪くなると、飼い主さんは不安な気持ちでいっぱいになり、夜も眠れないまま来院されます。まずは不安な気持ちを汲み取って、「大変でしたね。一緒に治していきましょう」と話しかけます。治療方針などこちらが一方的に言いたいことだけを伝えるのではなく、横にたって寄り添いながら飼い主さんの信頼を得ていきたいと思っています。

獣医師にとって一番の試練は、やはり不治の病を抱えた動物と接する時でしょうか。

何よりも命を救えない時が、悔しくてなりません。冷静に考えれば、寿命として受け入れなければならない場合もありますが、予測する前に病態が悪化してしまった時には、私の力不足や知識不足で手助けできなかったかもしれない、もっと別の手立てがあったのではないか、私じゃなければ救えたのではないかと自問自答します。そして、次に同じ病気の動物に出会った時は、絶対に救ってあげなくちゃいけないと固く心に誓います。

いわゆる、ペットロスになる飼い主さんも多いと聞きますが……。

悲しみは愛情の証ですから飼い主さんが落ち込むのは当然のことですが、決して「あのコは辛かったに違いない。かわいそうなことをした」とすべてを否定してほしくはないのです。最愛のペットの死に直面し、そのような想いを抱いたままでは、その後ずっと辛い記憶だけが残ってしまい、そのペットはずっと「かわいそうなコ」になってしまいます。「亡くなってしまったけれど、あのコにとって最良の選択をできた、あのコは私と暮らして幸せだった」と思ってもらうことで、そのペットの一生も輝くのだと思うのです。

つまり、動物の病気を診るだけでなく、飼い主の心のケアも大切だと。

その通りです。できるだけ"飼い主さんの気持ちに沿った治療"を心がけ、自分のペットにとってベストな選択だ、と納得いただける治療をしていきたいです。正しい診断や治療が大事なのは言うまでもありませんが、その上で最も大切なのは、こうしたコミュニケーションです。動物との間にたつ飼い主さんとのコミュニケーションがうまくいかなければ、結局一人よがりに過ぎません。私自身、動物と直接話しができればいいのに、といつも思いますが(笑)、飼い主さんのペットへの気持ちを第一に慮って、丁寧に信頼関係を築いていくことが大切だと思っています。

高橋香さん

獣医師としてやりがいを感じるのは、どんな瞬間ですか。

病気が回復することはもちろん嬉しいですが、動物は人間より寿命が短いため、手を尽くしても先に見送らなければならないのも現実です。ペットを亡くした悲しみから立ち直って、同じ飼い主さんが「新しいコを飼っちゃいました。また先生に診てほしくて……」と、厚い信頼を寄せて新しい"家族"を連れてきてくださる時は本当に幸せですし、光栄に思います。私のやり方が間違っていなかった、こちらの想いが届いていたと嬉しくなる瞬間です。

最後に、後輩にメッセージをお伝えください。

小中高校生の皆さんは、いまやりたいと強く願うことがあれば、何でもできると信じてください。私の好きな歌の一つに「未来は僕等の手の中」という曲がありますが、タイトルの通り、一見遠くに感じる未来や叶わないと思える夢も、一歩ずつ積み上げていけば必ず手が届くはずです。そのために皆さんに必要なのは、もちろん日々の勉強です。頑張れば見えなかった未来が見えてきます。勉強を通して見える範囲は広がり、得られるものも大きくなります。諦めずに頑張る強い心を持ち続ければ、夢は叶うんじゃないかなと思います。

力強いメッセージをありがとうございました。

高橋さんインタビュー「こぼれ話」

中学卒業以来、会う機会がなかったにも関わらず、20年ぶりに突然思いたって松尾先生に電話をかけてみたくなったという高橋さん。第一声は、あまりにも自然な「おお、香か」。それは、拍子抜けするほど月日の流れを感じさせず、通塾していた頃と少しも変わらずに温かく響いた、と嬉しそうに話してくれました。一昨年、中学時代の仲良し3人組で松尾先生に会いに行ったそうです。「自分の子どもを抱っこしてほしい、そんな風に思える大好きな先生の存在は本当にありがたいですね」

教育理念 困難な時代を生き抜く力

ティエラコムは、創業期より「困難にたじろがない ひとりで勉強できる子に」を教育理念としてまいりました。
「学習塾」とは一線を画した「総合教育運動体」としての姿勢を貫き、子どもの成長の礎となる人間の生地を鍛える教育の実践こそが、私たちの使命であると考えます。

人が生きていく過程には、避けて通れない『困難』が待ち受けています。
それらを安易に回避したり、ストレスで押しつぶされたりといった現代人の忍耐力のなさが問題視されています。
私たちは、困難を乗り越えた先にある喜びを味わえるようあえて多くの試練を用意し、鍛え、励ますことが教育者の役割であると考えます。

私たちの教育目的は、時代やグローバル化の要請に応じて、有用な「人材」を育て社会へ送り出すことではありません。
試練を乗り越えた喜びとともに得た自信を年輪のように重ねた人間こそが、自身の幸せをかみしめ、より豊かな国や世界をつくっていくと確信しています。

ティエラコムの企業活動は、常に「変わらぬ理念」と「新たな挑戦」のもとにあります。

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