就職先を見据えた大学選び。名古屋工業大学機械工学科へ

高校進学後も、陸上を続けたのですか?

梅田さん 高校はサッカー部に所属しました。陸上部の先生から勧誘されましたが、中学時代に全国大会で優勝したので区切りをつけて、新しいスポーツに挑戦したいと思いました。高校3年の春、もうすぐレギュラーの座を手できるというタイミングで、頑張りすぎて肉離れをしてしまって……。土日も一生懸命練習していたので、ショックでしばらく勉強に身が入らない時期がありました。

梅田泰宜さん

どのように受験勉強のモチベーションを
上げたのでしょうか。

梅田さん 新たな目標が見つかったことで、自然と気持ちも切り替わりました。「車やバイクが好きだから、これを仕事にしたい」という目標です。運転免許もまだ取得していないのに、昔から車やバイクに憧れてよく雑誌を眺めていましたし、乗り物を動かす"心臓"であるエンジン音が好きでしたね。

最初から明確にエンジニアになりたいと?

梅田さん 実は、戦闘機のパイロットに憧れて防衛大学と、自衛隊(海上・航空)の操縦士を養成する航空学生の試験も受けましたが、どちらも残念ながら不合格でした。それで、エンジンの開発に携わるという夢に近づける大学はどこだろうと調べて、名古屋工業大学を第一志望に決めました。自動車メーカーやバイク関連の企業に就職する卒業生が多かったからです。

大原先生 就職先を見据えて大学選びをされたのですね。偏差値で大学を選ぶ受験生が多い中で、目的を持って大学を選ぶスタンスこそが、本来のあるべき姿ですね。

どんな大学時代を過ごしたのですか?

梅田さん 機械工学科は単位取得が難しい学部で、とくにエンジンの開発に直結する「熱力学」の授業は非常に厳しい先生で……。1年間、毎週欠かさず実験とレポート提出を繰り返す日々でした。流体実験、材料からの削り出し実験、燃焼解析の実験などさまざまなテーマについてレポートにまとめました。実験とレポート提出はエンジニアの基本ですから、大学でたたきこまれたことが仕事に直結していると思います。

大原先生 梅田さんが好きなことを仕事にされたように、能開の子どもたちにもそうなってほしいと考えています。そこで、能開では小学5年から「未来設計図ノート」を書いてもらいます。大学入試改革が進む中で、自分が将来何をしたいのかを考える訓練を積み重ねて、遅くとも高校3年の段階ではやりたいことが見えてくることを期待しています。

コンピュータ制御に携わるエンジニアとして。技術の更新は、不断の努力で成り立つもの

就職して10年余りが経ちましたね。

梅田さん 現在までずっとAM(オート・モーティブ)事業部でエンジン開発に携わってきました。担当はコンピュータ制御部門です。例えば、燃費向上やパワー出力、エンジンのユニットがどこまで性能を使い切ることができるかなどを追求するべく、実験を日々積み重ねています。コンピュータ制御は目に見えなくとも、何よりも最優先されるべき安全性に関わる根幹部分ですから、やはり重圧ですね。

梅田泰宜さん

現在、携わっているのはどんなお仕事ですか?

梅田さん 4~5年先に焦点を定めて、新たなエンジン開発に取り組んでいます。こうした長期的なスパンのプロジェクトに携わるのは、今回が初めてです。立ち上げ時期にはコンピュータ制御チームの専任者も少なくて、すべて自分でやらなければならない状況です。まだ影も形も見えなくて何もかもが手探りですが、まずは年に一度の試作に向けて、コンピュータ制御をブラッシュアップしていきます。

大原先生 クリエイティブなお仕事ですね。過去の経験則だけで答えが出るものではないでしょうから、ご苦労も多いと察します。1つの成功までには多くの試行錯誤があって、心が折れる瞬間もあるでしょう。それでもチャレンジしなければ新しいものは生み出されないですからね。

梅田さん ええ。熟練の職人たちが積み重ねてきた経験と、コンピュータシミュレーションを併せて、技術の更新が行われていきます。当然のことながら一朝一夕では成り立たず、日々の努力がすべて。そこに"飛び技"はありません。また、目標性能を達成するためには、さまざまな他部門との連携も非常に重要なポイントになります。

大原先生 製品の完成までに見えないところでどれだけの多くの人が関わっているか、なかなか想像できませんから、こうして語ってくださることはとても貴重なお話ですね。

仕事のやりがいは、どんなときに感じますか?

梅田さん 私が携わった製品が世の中に出て、評価されたときです。専門家やジャーナリスト、マーケットの評価はやはり気になりますね。褒められたいという気持ちは、昔から変わらないのかもしれません(笑)。一方で、ブランドとしてこうあるべきだという開発リーダーの想いに応えたいという気持ちもあります。

普段からこれだけはしないと決めていることはありますか?

梅田さん 「辛い・キツイ・忙しい」は言わないようにしています。自分がキツイと思えばそこまでですし、人それぞれレベルが違うので「梅田はそこまでの人間だ」と思われるのは悔しいですね。スポーツ同様、負けず嫌いなもので(笑)。

大原先生 そういうところは小中学時代から変わっていませんね。能開の勉強スタイルも同じです。「宿題が多くて無理!」「満点を取らないと怒られる」という状況から逃れたくても逃げられない。でも、鍛えていくことで人間の限界値は必ず上がっていくと思います。

梅田さん そうですね。私がそう気づいたのは、ずいぶん大人になってからですが……。

大原先生 子どもの時はわからなくても大人になってから気づいてもらえることが、教育の真の成功なのではないでしょうか。