アオザイ通信
【2005年11月号】

ベトナムの現地駐在員による最新情報をお届けします。

春さんのひとりごと

< ベトナム人Uさん、日本料理屋の夢開く >
先日ベトナム人の男性で、日本料理屋をつい最近開いたばかりの男性と会いました。彼が開いた日本料理屋の場所はハノイ市内で、まだようやく3ヶ月経ったばかりということでした。

彼の名前はUさんといい、まだ29歳の若さですが日本語を大変流暢に話します。彼と話していると、非常に快活で、真面目で、とても誠実な好青年という印象を受けました。

彼が10年前にハノイの外国語学校で日本語を習い始めた頃、学費や生活費を稼ぐ目的と日本語の勉強も兼ねて、ホテルの中にある日本料理屋でアルバイトをすることにしました。

そこの日本人の店長は大変仕事や礼儀には厳しかったそうですが、そこで数年間働いているうちに、Uさんは「将来、自分もいつか日本料理屋を開きたいな〜」という夢を抱きました。

しばらくそこで働いていた時に、ときどき店長から「日本料理の味の勉強だ。食べてみなさい!」と言って、お客のいない時に従業員に差し出される寿司や刺し身などは、最初は全然食べることが出来なかったそうですが、しばらく食べつづけているうちにだんだんと「ア、案外うまいじゃないか!」と、少しずつ寿司や刺し身の旨さが分って来たそうです。

もっともこれは彼のようなベトナム人に限らず、子供の頃から寿司や刺し身などを食べ馴れていない異国の人たちが、そういう食べ物を「これは旨い!」と感じるまでには、長い時間が掛るようです。その理由は、なんといっても魚の生臭さにあるといいます。

我々日本人は小さい頃から刺し身や寿司を食べ馴れているのであまりそういうのを感じませんが、初めてそれを口にする人たちはすぐその生臭い匂いに気付くそうです。いくらキレイに水洗いしても、かすかに匂う魚の生臭さを敏感に感じ取れるようです。

実際私の女房が日本に行った時でも、このような料理には全然手を付けません。それでこちらサイゴンでも、2人だけで日本料理屋に行ったことは一度もありません。もっとも日本にいる時に、馬刺しだけは魚の生臭さがないせいか、「これは大変おいしいです!」と言いました。

Uさんに「なぜベトナム人のあなたが、あなたにとってはまるで未知の世界である日本料理屋を開きたいと思ったの?」と聞きました。すると彼が日本料理屋を開きたいという夢を抱いたのは、日本料理の芸術性や、味の奥の深さに大きな魅力を感じたからだそうです。

そしてそれ以上に一番大きい理由は、「日本人の店長が日本料理を作っているのをずっと横で見ていましたが、ベトナム人の私たちからすれば驚くような衛生観念の徹底と、どんな小さな仕事にも手を抜かないプロとしての仕事の厳しさと、緻密さに惹かれました」と、話してくれました。

さらには、「その店長が朝早くから夜遅くまで続く、ハードな仕事を楽しんでいる姿勢にも感動しました。そして将来自分もそのレベルに近づき、同じような素晴らしい仕事をしたいと思ったのです」と、嬉しそうに話してくれました。

今サイゴンには、日本料理屋が雨後の竹の子のごとく林立している通りがあります。そもそもサイゴン市内には、日本料理屋が全部で一体何軒あるのかあまりに多すぎて、正確な数は分らないほどです。

なかには隣同志が同じ日本料理屋というところもあります。タイ国と比べたら格段に日本人の滞在者は少ないベトナムなのに、(それで良くも潰れないもんだなあ・・・)と不思議な気がします。

私自身はそういう場所にほとんど足を運ぶことはありませんが、日本の味を懐かしむ人には、こういう異国での日本料理屋の存在は、貴重なくつろぎの場所になっているのでしょう。

彼が日本料理屋を開いたハノイは、サイゴンほどその数は多くありませんが(彼のような、子供の頃には日本料理など食べたこともなかったであろうベトナム人が、ハノイで日本料理屋を開くほどに日本料理もベトナムという国で親しまれるようになったのかなあー」と、非常に嬉しく思います。

いずれアメリカなどのように、ベトナムの日本料理屋にも日本人よりも現地のベトナム人がたくさん食べに来て、寿司やテンプラや刺し身を食べている光景を見ることが出来るかもしれません。
私としては、最近開店したばかりの彼のハノイでの夢叶った、日本料理屋の今後の成功を祈るだけです。

そう言えば我が子も今月11月でちょうど3歳になりましたが、今我が子の舌から出て来る言葉は回りが99パーセントベトナム人に囲まれているせいか、その話す単語も99パーセントがベトナム語です。

子供の口から出て来る日本語と言えば、「オジイチャン」「オバアチャン」「モン・モン(ドラえもんのこと)」くらいです。話す言葉だけではなく、舌の味覚もこのままでは、将来ベトナム料理しか味わえない子供になるんだろうか?とふっと思う時があります。

そういう意味では、日本に行った時に寿司や刺し身の旨さが分る味覚を作るためにも、たまには日本料理屋に連れて行って、まだ幼いうちからそういう味に親しませたほうがいいかなと、思うこの頃です。





「BAO(バオ)」というのはベトナム語で「新聞」という意味です。
「BAO読んだ?」とみんなが学校で話してくれるのが、ベトナムにいる私が一番嬉しいことです。

■ 今月のニュース 「来年から学費の大幅値上げ」■
教育養成省の発表によると、来年のU学期(1月から5月まで)から学費の大幅値上げについて提案・発表をした。これに対してそのあまりの学費の値上げ幅の高さに、保護者や生徒たちの間から大きな動揺が起きている。

今回の提案によると、中学校の学費が現行の一ヶ月35,000ドン(約250円)から105,000ドン(760円)に、専門学校の学費が同じように一ヶ月100,000ドン(約720円)から500,000ドン(約3,600円)に引き上げられることになる。

そして今回の発表の最大の問題点は、大学の学費である。この発表によると、大学の学費は今までの180,000ドン(約1,300円)から何と900,000ドン(約6,500円)に大幅に上げられることになっているのである。

全体の平均として見ると、来年から5倍の学費アツプになっていることが分り、約500万人以上の中・高校生や大学生に大きい影響が出るものと予想される。

■学費の値上げは学業放棄の危機!■
(一学生の投書より)
私の大学では100人のうち40人は、今の学費でもその家族の経済状態は大変厳しい・苦しい生活をしている状況です。両親から仕送りしてもらっている金額は、学費と生活費を合わせても平均して300,000ドン〜400,000ドン(約2,200円〜2,900円)が普通です。

田舎から出て来た両親の職業といえば、そのほとんどが農業や漁業です。両親が農業の場合、その収入は米やイモや野菜くらいしか収入源がありません。その収入は一年で1,000,000ドンから2,000,000ドン(約7,200円〜14,500)くらいなのです。

来年からこのような学費の大幅な値上げを実施した場合、それでどうしてこれから学業を続けられるのでしょうか?この件に関して、100人以上の大学生がクラスの中で話し合いました。そしてみんながこう叫びました。

「今回の学費値上げの発表は道理に合わない。こんなに高い学費の値上げは、学生の学業の放棄の危機だ!」と。

(解説)
ベトナムを旅している旅行者が路上やレストランで食事をしていると、夜の8時・9時の時間を過ぎてもまだ小学生低学年くらいの子供たちが宝くじや、花や、チュウインガムや、タバコや、雑誌などを売りに来る光景に出会うことが多くあります。

中には小学生どころか、まだ5・6歳の子供もいます。このような子供たちは夜だけでなく、朝からも昼も同じような物を売り歩くために街中を歩き続けています。

ベトナムでは小学校までは義務教育が義務付けられていますが、このような環境に育った子供たちが満足に学校に行けているかは大いに疑問でしょう。ある人から、中国にも同じような子供たちが数多くいると聞いています。

そうなると、社会主義国にしてこういう貧しい子供たちを学校に行かせることが出来ないという冷厳な事実に、戦後の日本が抱いて来た社会主義国に対しての幻想が崩れていくのは当然と言えます。

今の中国も、今のベトナムも社会主義国でありながら貧富の差はますます開いています。そうなると今でさえ学校に通わせずに我が子に夜遅くまで物売りさせている貧しい家庭と、両親がお金持ちで裕福に育った子供との差は歴然と開いていくことでしょう。

ですから政府が今回のような学費の大幅な値上げをすれば、両親がお金持ちか、貧しいかにより、ますます「学校に行ける子供と、行けない子供」がベトナムの社会に出現することになるでしょう。

知り合いの教育省に最近勤めているあるベトナム人に聞くと、「今回の提案にあったようにいきなり来年から5倍はないだろうが、2〜3倍に値上げされるのは間違いないだろう」と話してくれました。

そうなると、貧しい家庭から大学に送り出している家庭ははたして大丈夫なんだろうかと大いに不安に思います。


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