アオザイ通信
【2005年1月号】

ベトナムの現地駐在員による最新情報をお届けします。

春さんのひとりごと

< ベトナムに碁の普及を! >
ベトナムのホーチミン市にある一つの建物の中で、朝からも、昼も、夜も「パチーン・パチーン」と碁を打つ音がしています。たまたま私が覗いたその時には、6人ぐらいの人が碁盤をはさんで対戦していました。そのほとんどがベトナムの人たちです。時に碁の指導のために、日本の人が教えていることもあります。

今から約一年前、日本で会社を持っているAさんが(Aさんご自身も有段者なのですが)、ベトナム人のために碁を普及させようという目的を抱いて、ホーチミン市中心部の一区に碁の教室を開きました。

この碁の教室を開くためにまず一件家を借りて、その家賃代・水道光熱費もすべて自分で払って行くほどの力の入れ方でした。碁を教えると言っても、碁の何たるかも知らないのがほとんどのベトナム人から授業料を取れるはずもなく、最初は無料奉仕と言っていいほどだったようです。ですからすべての経費は身銭を切って今もやりくりされています。

今一年が経ち、ベトナム人でも碁の基本が少しずつ分る人も出て来たのか、Aさん自身もベトナム人と対局していることもあります。ベトナムの人に「碁は面白いですか?」と聞くと「ええー、もう大変面白いですよ。大変奥の深いゲームだと思います」と答えてくれました。将棋は知っていても、碁を知らない私は「そうですか・・・」と聞いているだけですが。

Aさんに「ハノイにも碁の倶楽部はありますか?」と聞くと、「碁をやっ ている人数はホーチミンと同じように少ないが、あることはある」と言う返事でしたが、要はまだベトナムではさほど普及していないという段階なのでしょう。

さらにようやく最近、碁を習っている人たちから正式な受講料代として 、授業料を頂くようにしているということですが、それでもまだまだ電気代にも充当出来ないくらいの額でしょう。それでも「ベトナムの全土に碁 を普及させるんだ!」と熱い情熱を抱いているAさんの言葉には、聞いていて圧倒されます。年齢を聞けば、私よりも10歳上の60歳を少し超えたくらいということですが。

以前合気道を習っているベトナム人の練習の熱心さを見ていて感動しましたが、合気道が「動」の文化と言えるなら、この碁は「静」の文化と言えるでしょうか。

でもこの2つとも今、日本人を経由してベトナムに着実に広がって来ているのが、ベトナムに住んでいる日本人としては大変面白く・嬉しく思えるのでした。





「BAO(バオ)」というのはベトナム語で「新聞」という意味です。
「BAO読んだ?」とみんなが学校で話してくれるのが、ベトナムにいる私が一番嬉しいことです。

■ ■ 今月のニュース 「 発展と伝統の両立をどう調和するべきか? 」 ■ ■

カンザーはホーチミン市の中心から50kmに位置し、面積70,421haでホーチミン市の3分の1の面積を占め、そのうち79%がマングローブ森で、かつ22,850haのクリークが流れていて、そこには鳥も飛来する、ホーチミン市では唯一の海に面した郡です。そしてここはまた、海やマングローブ林の生態を観察することも出来るし、休養の場としても大きい潜在能力を持つようになって来ました。

★カンザー=観光のブームの到来★
1990年の末頃からカンザーには観光ブームの兆しが少しずつ現われて来ました。そして最近になって急にその数が増えて来ました。1999年にカンザーを訪れた観光客は、42,200人だったのが、2003年には253,000人にまで増え、2004年度は300,000人に達すると見られています。そしてそのうちの6%が外国人です。

そしてカンザーでのこの観光産業の役割は、地元経済の発展と地 元住民に雇用の場を与える仕事を創り出すために、大きな価値を生み出していると肯定されつつあります。

観光業を成り立たせるためには、レストラン、ホテル、旅館、資本投資して開発・建設出来るだけの観光地などが必要です。1998年度には、このカンザーには一つの小さなホテルと、6部屋の民宿しかありませんでした。

それが今は何と120部屋にまで増え、観光客の多様な要求を満たすことの出来る、多くの種類の部屋があります。さらに観光の中身もマングローブ林をボート・トリップし、セミナー・ハウスを見学したりするなどが出来ます。実はここが抜群の景観の美しさと、落ち着いた安らぎのあるマングローブ林観光の中心なのです。


★カンザー観光=サルの島?★
カンザーエコツアーの長所は、マングローブ林の下に育つ(サルの群れやコウモリや餌付けされたワニなどの)生物などですが、まだ実際には観光客を惹き付けるところのレベルまでは達していません。

ですからカンザーに来るお客さんの数は、今後すぐ急に増えることは難しいと予想されます。さらにもっと便利な交通システムの改善や、目玉となる観光のポイントの創出が必要となるでしょう。

今のところ多くの観光客は、カンザーには「サルの島」があるというだけの評判だけで来ているのです。カンザーに来た人たちは、サルの島を見学して、ワニ園を見て、ゲリラノ基地を訪問し、海で泳ぎ、その後民宿で休んで海産物を食べて帰るというパターンです。

ですからまだまだ多くの観光客にとって「ここは良いところだ。もう 一度ぜひ来よう!」という気持ちまでは、イメージを高めることには成功していません。


★観光産業がカンザーに与えるメリット★
カンザー森林保全局の見解によると、カンザーにおける観光産業の発達は、ここカンザー住民に多くの変化をもたらしました。その一つには、生活が以前よりも豊かになり向上したこと。次に普段の観光客との接触によって、以前と比べると明かに住民の意識も改善したことが挙げられると言うことです。

さらにはカンザーの特産品である貝殻などを利用して、観光客用のお 土産を造るなど、地元民による手工芸の文化も誕生したといいます。

さらにまたカンザーエコツアーの会社は、今約200人の従業員を雇用していますが、そのほとんどは地元の住民です。彼等の収入は地元の人たちと比べてもかなり高いし、給料はこれからも上がっていくといわれています。


★観光産業がカンザーに与えるデメリット★
しかしながら、観光産業がカンザーに与える良くないことも、今出て来ています。それはゴミや廃棄物の増大の問題です。カンザーが今ほど観光客が多くない時分は、ゴミの問題などはほとんど存在しませんでしたし、たとえゴミが発生しても少量のうちに処分されていました。

しかし今は多くの観光客が持ち込む多くのゴミと、現地で生み出す大量のゴミの2つの面から、カンザーの景観や環境生態系にも深刻な影響を与えるようになって来つつあるのです。

そしてこのゴミは、カンザーのマングローブの森に生育している、サルや鳥やコウモリなどにも影響を及ぼして来ていて、このまま放置していけば、将来はその生育数が減ってくるだろうと言われています。


★発展と伝統の調和をどうするか?★
以上見て来たように、カンザーにおける観光産業はここ最近発展著しいものがあり、それはカンザーの人たちの雇用の創出や、住民の生活改善や、意識の向上などにおいて良い影響をもたらしています。

しかしまたこの同じ観光産業がカンザーに与える影響は、環境汚染や環境破壊としてのマイナス面を持ち込んで来てもいるのです。

今後考えるべきことは、観光産業の“発展”のもたらすプラス面を活かしながら、どうカンザーのマングローブ林保全区としての“伝統”と調和させていくかを考えないといけないということでしょう。

(解説)
昔のカンザーのひなびた漁村を知っている者として、最近のカンザーの変貌には確かに目を見張ります。今その変化しつつあるちょうどこの時に、このようにベトナムの新聞にカンザーの観光産業のもたらすプラス面・マイナス面について、冷静な記事が出たのを見て嬉しくなりました。やはりベトナムの人でも、いろんな観点から見ている人たちがいるんだなーと思ったことでした。


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