アオザイ通信
【2003年8月号】

ベトナムの現地駐在員による最新情報をお届けします。

春さんのひとりごと

<ベトナム人と合気道>

先日ふとしたことから、合気道の道場を見学に行く機会がありました。その道場は市内の中心部から少し離れた場所にありましたが、夕方の時間から始まり、5時から9時までの2回転のクラスで、みんなが合気道の練習をしています。

私が夕方にそこに着いた時には、もうすでに練習が始まっていて、年齢で言えば40才代から、10代までの人たち約30人ほどの練習生がビニールの畳の上で熱心に合気道を学んでいました。

じっとしていても玉のような汗が流れてくるような暑さの中で、みんなが2人1組になって相手を倒したり、倒されたりと、真剣にやっているその姿を見ていると、ここは本当にベトナムなのだろうかと一瞬思ったほどです。

実はここベトナムでは、合気道という武術は「テコンドー」や「柔道」などと比べて、習っている人の数ははるかに少ないのです。それでも今サイゴンには15の道場があり、約2,000人の道場生がいるし、サイゴン以外にも全国に9つの道場があり、約500人の人たちが合気道を学んでいるといいます。その日私が訪ねた道場には75人の道場生がいるとそこの人が教えてくれました。

そこには私も知っているベトナム人女性の知人がいまして、何と彼女は合気道を始めてからすでに10年になろうとしています。練習の合間に私に挨拶する時の笑顔は大変明るくて、こちらまで愉快にさせてくれます。

彼女の名前はYen(イエン)さんといい、40代初めくらいの年齢で、黒帯の腕前です。彼女は日本語も達者で、以前は日本語学校の先生もしていましたが、今は旅行会社で働いています。

彼女に「なぜ合気道を習おうとしたんですか?」と聞くと、「その頃自分は体が弱くて、毎日病気がちで健康にいいものが何かないかな?」といつも関心を持っていた時に、たまたま新聞に合気道の広告が載っていたのです。

また私の知り合いにも合気道をやっている人がいて、その人に聞くと、「合気道は健康にも、護身にも、大変すばらしい武道だよ」と言うので、(とにかくその門を叩いて見よう。いやだったら一ヶ月で止めればいいから・・・)と自分に言い聞かせて今まで来たけど、「気が付いたらもう10年近くになろうとしています」と、彼女は笑いながら話してくれました。

Yenさんはこの合気道を習っている人達の中では、年配のほうになり、「自分よりもまだ若い人たちが必死に汗を流して頑張っていますよ。私もこの武道をもっともっとベトナムの人たちに広めたいのです」と、目を輝かせながら話してくれました。

Yenさんがそう話している後ろで、みんなが練習している光景を見ていると、日本で生まれた合気道という武道が、今ここでこうして異国の地で着実に根付いて来ていること。そしてそれを日本人以外の地元の人たちが、さらにまた大きく枝や葉を広げた大樹に育てていこう としている姿を見て、たいへん嬉しく思ったことでした。


フーンさんの子育て日記B

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これは日本人と結婚して、昨年初めて赤ちゃんを産んだベトナム人女性・フーンさんの半年間の子育てを、日記ふうに綴ったものです。
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*一ヶ月目、子育てのはじまり*

退院していよいよ本格的な子育てが、これから始まりました。ところでベトナムでは産後一ヶ月までは、シャワーを浴びると体が冷えて良くないと言われていて、どんなに暑くて汗が出てもみんな我慢しています。せいぜい濡れたタオルで体を軽く拭くだけです。

私もみんなが言うようにそれが当たり前と思い(私の姉も産後一ヶ月は、やはりシャワーは全然浴びなかったそうです)、一週間・十日と我慢していましたが、ついに二週間目になってどうにも我慢しきれなくなり、シャワーを浴びてしまいました。

でもシャワーを浴びた後は気分もすっきりして、やはりこのほうがいいわと思い、それからは毎日シャワーを浴びるようになりました。その後も体を洗って気持良くしていたほうが、やはり赤ちゃんにも気持良く接することが出来ました。

こういう考え方は、温かいお湯が出ないシャワーの設備のない田舎などでは直接そのまま冷たい水を浴びるしかなく、体の弱った産後間もない女性にとってはあまり体に良くないことなので、そういう考えが広まったのだろうと思います。

さらにまたこれも昔ながらの方法ですが、母は毎朝七輪に炭を熾して、私のベッドの下にそれを置き、私の体を温めてくれます。七輪の炭の熱でベッドの一番下の板とマットが熱いくらいになったころに、背中とお腹を交互に温めますので、私は毎朝汗だらけになります。これをしないと後々、体が弱くなって支障が出て来ると昔の人は言いますが、その効果のほどはしばらく経ってみないと良く分かりません。

次に私の母はその炭火の熱に手をかざして、しばらく温めた手を今度は赤ちゃんの頭とお腹に当てて何度も繰り返していきます。この動作は赤ちゃんにとっても気持が良いようで、その間はじっと目をつむって寝ています。12月のベトナムも朝はやはり少し涼しいので、温かいものが体を気持良くしてくれるからでしょう。

そして私は練炭以外にも、生姜の根っこに良く似たウコンの根を粉々にして毎日顔や体全体に塗りました。これは産後すぐは皮膚が荒れているので元に戻すためですが、これは近所のおばあさんから教えてもらいました。これをするのとしないのでは、「一年後に皮膚のツヤがずいぶん違って来るよ」とそのおばあさんが言うのでそれを信じて塗っていますが、この粉自体が黄色いので手や体に触れるものも真っ黄色になってしまいました。

そしてさらにその擦ったウコンの黄色い粉を、毎日小匙一杯ずつそのまま飲み込んでいます。これもお産で傷ついた体の回復を早めてくれるんだよと、そのおばあさんが言いました。ほかの人にも話しを聞くと、このウコンは肝臓や胃腸に効能があるそうです。しかしこれも本当にその効果が有るかどうかは、しばらく経たないと良く分かりません。

さらにもっと体に良いのが烏骨鶏(うこっけい)のスープで、これは骨や肉が黒くなった鶏の一種で作ります。全身がカラスのように黒いので、このような名前が付いたのでしょう。

この鳥は古来の中国では、薬膳料理に使われて来た高級食材ですが、このベトナムでは大変安いです。この鳥を材料にして出来たスープも全てが真っ黒で、見た目はあまり美味しくなさそうですが、そのスープを飲んで見ると想像以上に大変美味しく、体がポカポカと温かくなって来ます。

こうして産後一ヶ月の間は私も安静に過ごし、赤ちゃんも毎日ミルクを飲み順調に育って来ました。病院では開かなかった目も、3日目を過ぎると大きい目を少しずつ開けて来るようになり、自分の回りの世界全てを見たいような顔でじっと見つめています。私もその目をじっと・じっと覗いてあげます。

お医者さんの話ではまだこの時期の赤ちゃんの視力は0.01くらいしかなく、回りの景色や人の顔もボンヤリとしか見えないと言いましたが、それでも少しずつ母の顔は覚えていくのだろうと思います。その証拠に顔を近づけると「ニコ〜ツ」とした笑顔をしてくれます。

生まれて一ヶ月目を迎えた時に、病院に身長と体重の測定と予防注射を打ちに行きました。身長が2cm伸びて51cm、体重が4.2kgになっていました。そして誕生一ヶ月目のお祝いと、これからみんなの親戚の一員になることの紹介と、赤ちゃんがこれからも無事に・順調に育ってくれることを神様に祈るために、親戚や友人を呼んで食事会をしました。

赤ちゃん本人はただ乳母車の中で寝ていただけでしたが、私の父や母は大変喜んでくれました。春さんのお父さんやお母さんがここにいたら同じように喜んでくれたことでしょう。ただミルクを与えオムツを代えるだけの毎日なのに、オムツの交換などは最初は30分に1回はしないといけないので毎日がそれに追われ、この一ヶ月が過ぎるのも本当に早いものでした。

つづく



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