■引用文献■
『日本の昔話1』
関啓吾・編
岩波文庫


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■日本の昔話2---飯食わぬ女房

とんとあるはなし、あったかなかったかは知らねど、昔のことなれば、無かったこともあった話にして聞かねばならぬ。


昔、あるところに、ひとりの男がありました。いつまでもひとり者でいるので、友だちが心配して「もうええかげんにして、嫁でもろうたらどうだい」といって、嫁をもらうようにすすめました。けれども、その男は「いつまでまってもええが、物を食わない嫁があったら、世話してくれ」といいました。

そういっていると、ある日の夕方、その男の家へきれいな女が来て、「わたしは旅の者ですが、日がくれてなんぎをしておりますから、どうかひと晩とめてたもれ」と、宿をたのみました。男は「宿はかしてもええが、うちには食べるものがないよ」といって、ことわりました。けれども、女は「わたしはなんにも食べません。ものを食わん女です。泊まるだけでええです」といって、たのみました。男はたまげたけれども、その女をとめることにしました。

女はあくる朝になっても、出ていこうとしません。いろいろ用事をしてくれるので、男はいつまでもとめておきました。なによりもよいことは、なにもたべないで仕事ばかりしていることだ。けれども、いつまでたってもなにも食わないので、男は少したべてみいというてみたが、女は匂いだけかいどれぱええといって、どうしてもたべなかった。

男は、世の中にこんなええ女房はないと思うて、友だちに自慢していました。けれども誰もほんとうにするものはなかったoそのうちに、いちばん仲のよい友だちがやって来て、「おい、お前はどうしたんや。まだ気がつかんのか。お前の女房は人間じゃないよ。しっかりせにゃいかんよ。」とおしえてくれました。けれどもその男は、「そんなことがあるものか」といって、とりあわなかった。

「知らんのはお前だけじゃ。村じゃ大きな評判じゃよ。世の中に物くわん人間があるものか。うそじゃと思うなら、どこかよそへいくふりして、女房に気づかれんように天井に上がって、何をするかみてみろよ」といいました。

ある日、男は町へいくとき、「夜にならんと戻らないよ」といって、家を出ていきました。一町ばかり行ってからもどってきて、女房に知られないようにそっと天井へのぼっていました。女は一人になると、米をとぎはじめました。火をどんどん焚いて、飯を炊きはじめました。飯が出来るとにぎり飯を三十三こしらえて、台所から鯖を三匹とって来て火にあぶりました。それから立膝をして、髪の毛をばらばらとほどいた。どうするか見ていると、頭のまん中の大きな口の中ににぎり飯やら、あぶった鯖やらどんどん投げ込んで食ってしまいました。
男はこれを見て、肝をつぶして天井からそっと降りて、友だちのところへ逃げて行きました。

「それみたことか、いわんこつじゃない。だがな、今日は知らん顔して家へいぬるがええ」といったんで、男は知らん顔をして家に帰りました。いってみると、女房は頭がいたいといって、寝ていました。どうしたのかとたずねると、「どうもせんが、気特が悪うてねとる」と、ねこなで声で答えました。「そりゃいかん。薬でものんでみるか、祈薦でもしてもろうてみるか」といったら、「わたしや、どうすりやええかわからん」といって、いまにも飛びつきそうなようすをしました。「それしや、おれがいま祈祷師をたのんできちゃる」といって、友だちのところへとんでいってつれて来ました。「何のたたりだあ。三升飯のたたりだぁ。鯖三匹のたたりだぁ」と友だちがいうと、女はそれを聞いて飛びおき「うん、お前たちゃ、見ていたのう」といって飛びついて来て、友だちを頭からがしがし食いだしました。

男はひどくびっくりして逃げようとすると、女は友だちを食ってしまうとその男をとらえて、手猫のようにぶらさげて頭の上にのせて、さっさと山の方へ逃げて行ってしまいました。そうして、野をこえ、山をこえて、うさぎのようにかけて行きました。森の中にかかったとき、目の前に木の枝がつき出ていたので、しめたと思って枝にぶらさがりました。飯食わぬ女房の鬼はそれとも気づかないで、どんぱんかけて行きました。

男は木からおりて、そこのよもぎとしょうぶのくさむらの中に、そっとかくれていました。すると鬼女は男のかくれているところに引き返して来て、「お前がどこにかくれていても、逃がすものか」といって、とびかかろうとしました。けれども、もう少しというところでとびのいて、「ああ、うらめしい。よもぎとしょうぶぐらい、このからだに毒なものはない。この草にふれたらからだがくさるんじゃ。その草がなかったら、お前も食ってしまうのになあ」といって、たいそう残念がりました。男はこれで大丈夫だと思って、草をとって鬼に投げつけました。さすがの鬼も毒にかかって死んでしもうたそうです。

                            -----広島県安芸郡-----


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