アオザイ通信
【2006年10月号】

ベトナムの現地駐在員による最新情報をお届けします。

春さんのひとりごと

<日本文化を愛するバイクタクシーのベトナム人>
ベトナムに来た旅行者が、「いや〜ひどい目に遭いました」と言うのが、市内や観光地の到る所で観光客を待ち受けているシクロやバイクタクシーを利用した時の体験談です。

最初に決めた値段の数倍の値段を乗車後に請求されたとか、平均の相場の金額を知らない外国人であることに付け込んで、途方もない金額を払ってしまった人たちが良くいます。

そして街中には今も、無知な観光客から出来るだけふんだくってやろうというシクロやバイクタクシーの男たちがテグスネを引いて待ち構えています。

それで私は日本から来た知人には、極力そういうのは利用しないようにアドバイスしています。では何を利用すればいいのかというとタクシーということになるのでしょうが、このタクシーも会社によってはメーターを倒さずに走って、後で普通に走った場合の料金よりは数倍の金額を要求してきたり、中にはメーターが異常に速く回るタクシーもあります。そういうのはメーターに細工をしているのです。本当に困ったものです。

ベトナムの人たちももちろん日常の足として時にこういう交通手段を利用はしますが、彼らはベトナム人であるので大体の「相場」を知っています。当然ベトナム語で目的地を告げ、ベトナム語で料金を聞き、ベトナム語で交渉し、高い場合はベトナム語で強く抗議しますから、さして大きなトラブルは起きないわけです。

しかし街中で、ガイドブックを片手に右往左往している観光客(どういうわけかこういうスタイルは日本人が多いんですよね)を見ると、「どこへ行くんだ?」としつこく聞いてきて、「ああ、そこはここから歩いては遠いぞ。今から俺のバイクで連れて行くから乗れ!」と誘われてバイクに乗って、目的地に着いて降りたら最後こういう目に遭うわけです。

私も最初ベトナムに来た時に、右も左も分からない状態で中央郵便局に行こうとしたことがありました。しかし道に迷ってしまい、「中央郵便局はどこ?」と、バイクタクシーの男にベトナム語で表記してある地図を見せて聞いたことがあります。

すると彼は、「あ、そこはここから30分くらいは掛かるよ」と答えました。しかし地図を見ると、どうしてもさほど遠い距離ではなさそうなので、自分一人でさらにしばらく歩いて行くと、やはり目指す目的地の郵便局が見えました。それは彼に聞いた地点から約5分の距離でした。

そういうことがあまりに多すぎるので、私は自分自身ではこういう交通手段を利用したことはほとんどありません。それがある日たまたま自分のバイクがない日があり、やむなく街中で一台のバイクタクシーを利用することになりました。

街角でお客を待っていたその男に声を掛けると、「あなたは日本人ですか?」と話してきました。まあこういうのは、雑貨売り場のおばさんでも、観光客に流暢な日本語で話しかけてきますのであまり珍しいことではありません。

しかし、少し待ち時間があったので路上の御茶屋に入ってから彼と話しているうちに、(この人は今まで私が考えていたようなバイクタクシーの男たちとは違うな・・・)という印象を持つようになりました。

まず、「好きなものを飲んで下さい」と勧めても、彼はそこでは一番安い「チャ ダー(冷たいお茶)」しか注文しません。そして彼は今市内にある有名な日本語学校へ、自分で授業料を払いながら2年間通っているといいます。それで日本語が大変流暢なはずです。

彼に「なぜ日本語を勉強しようと思いましたか?」と聞きました。すると彼は「私は日本の文化や、日本人が好きなんです」と、彼は答えました。さらに面白い話として、ベトナム中部のホイアンには日本人の墓が田んぼの中に建てられていますが、わざわざ彼はそこまでバイクで訪ねて行ったそうです。「その墓にはワタナベという名前が書いてありましたよ」と、私に教えてくれました。

彼と話していると、こういう仕事に就いている男たちによくある観光客ずれという感じがしなくて、非常に遠慮深く、めずらしく謙虚でした。さらに後日、日を改めてまた会いましょうという約束をして、その数日後にもまた会いました。やはりこの時にも、この印象は変わりませんでした。

彼にビールを勧めても「いや、結構です。」と言って、またここでもお茶しか飲みませんでした。飲めないわけではないのですが、やはり遠慮しているようです。食事を勧めても遠慮がちに、申し訳なさそうに頼みます。

彼は自分の私生活についてもいろいろ話してくれました。今彼は34歳で、奥さんと一人の13歳の男の子がいること。朝は8時くらいからバイクタクシーの仕事に出かけ、昼前に一旦家に帰ってまた2時くらいから6時・7時くらい、時には8時くらいまで働くこともあるということ。

市内観光をバイクで案内して、1回につき20ドルの謝礼を受け取ること。バイクでクチトンネルまで行くこともあること。1ヶ月の収入は少ない時で300万ドン(約2万2千円)、多い時で500万ドン(約3万7千円)くらいあること・・・・等々。

彼に「将来は何をしたいですか?」と聞きますと、「まず安い韓国製の車を買って、車でお客さんを案内するような仕事をしたい。雨の日でも案内出来ますからね。それから高い日本の車に買い換えたい。将来は自分で会社を興すのが僕の目標です。」と、答えてくれました。

今日も、明日も、ずっとこれからも彼は市内中心部の街角で日本人のお客さんを待っています。彼の名前はNhatさんと言います。Nhatとは日本の「日」の意味です。





「BAO(バオ)」というのはベトナム語で「新聞」という意味です。
「BAO読んだ?」とみんなが学校で話してくれるのが、ベトナムにいる私が一番嬉しいことです。

■ 今月のニュース 「ベトナムの教育事情」■

<なぜ多くの人が子供たちを国際学校にやるのか?>
ホーチミン市の、ある国際学校では小学生の算数の授業の中に、子供たちの関心を惹くために歌や踊りなど、にぎやかな授業を取り入れた。このクラスは床面積が40?だが生徒は20人しかいない。その20人が3つのグループに分かれて、楽しく授業を受けていた。

ここで教えていた女性の先生は、「はい!今から掛け算の復習をしましょう!」とみんなに号令をかけて、「はい!4×9はいくつ?」と質問すると、すぐ全員の生徒たちから「4×9=36です!」という答えが元気に返って来た。

このクラスの学費は、1ヶ月に約2百万ドン(1万5千円)とベトナムの学校と比較したら目をむくような高い学費である。それでもここに通わせている父兄は、「授業料は確かに高いけれど、ここの学校は大変魅力がある。」と話していた。

実際にここの学校の生徒数は、1999年に開講した時には174名であったのが、2006年には小・中併せて約一万名にまで激増したのである。

さきの父兄がまたこうも言っていた。「何といってもここの学校は授業が分かりやすいし、面白いし、構内が涼しいし、教室も広くて、設備が近代的なのです」と。

ここで教えているのはベトナム人の先生なのだが、毎年英国やアメリカやオーストラリアの専門家たちと一緒に、生徒たちが授業に積極的に参加する方法を研究しているという。

これに比べてベトナムの学校は詰め込み式の教育なので、生徒たちも授業に積極的・意欲的に参加する気持ちに欠けている。
さらに授業が終われば、先生たちが自分で塾を開いていて、授業で分からなかった続きをそこで教えるから、必然的に生徒たちはまた先生の家で勉強しなければならない。

別の父兄はさらにまたこうも言う。「生徒たちには固苦しい勉強を詰め込む必要はない。学習することが楽しく、授業に意欲的になり、宿題も軽くして、勉強の意欲を高めることが一番大切なことなのだ」と。

以上のような理由から最近父兄が自分の子供たちを国際学校に入れたがっているのである。

<教育分野も人材不足 2割前後が水準満たさず>
国の基準を満たす熟練教師の数が不十分・・・ベトナム国会の文化・教育・青年・児童委員会が発表したレポートによると、ベトナムのすべての教育課程において熟練した教師が不足している現状を報告した。

このレポートによれば、国内の教師の数は97万9000人(内訳は、公立校教師84万4000人、私立校教師13万5500人、職業訓練校教師1万1400人)で、そのうち国の水準に満たない教師の割合は、■小学校、23・8%■中学校、11・6%■高校、19・1%・・・となっている。

このレポートはまた、教師の5分の1は指導技術が不足していて、3-5%がモラルに欠けると指摘している。さらには職業訓練校の中等科では、「教師の大部分が大卒だが、実用的なスキルに欠ける」としている。

また総合大学では、「教師の担当する授業のコマ数が、他の国では1人当たり年間300〜400コマなのに対し、国内の大学の大部分では800〜1000コマとなっている」と報告している。

(解説)
「教育改革」とは「教員改革」と良く言われる言葉ですが、これは世界中どこでも同じようです。ベトナムの教育レベルの水準は高いのか、低いのかまだ自分の子供を通わせていないので実際には良く分かりません。

しかし私の知人のベトナム人は「ベトナムの教育のレベルは低いから、自分の子供はベトナムでは教育は受けさせたくない。ドイツにやるつもりだ」と公言していました。しかしまあ、こういうふうに外国で我が子に教育を受けさせる人たちはまだ例外でしょう。

そういう意味では、少し経済的にゆとりのある人たちは我が子をベトナムの学校ではなくて、こういう国際学校に通わせるのもトレンドになっているのかもしれません。そういう学校の前をたまたま授業が終わる頃に通ると、迎えに来た父兄のバイクで道路は大渋滞しています。

しかしやはりそういう学校の授業料は高いので、私の子供はどうしたものやら・・・と少し考えてきたところです。



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