アオザイ通信
【2004年8月号】

ベトナムの現地駐在員による最新情報をお届けします。


春さんのひとりごと

< 日本人のつくった学校 >
先日日本から来た知人4人を案内して、日本人がベトナムに創った私設小学校を訪問しました。場所はホーチミン市の7区にあり、 市内から車で20分ほどのところにあります。

この小学校は日本人男性のFさんと、その奥さんでベトナム人のOanh(オアン)さんが2人で一緒に始めた私設の小学校です。 名前はSaint Vinh Son(セイント ヴィン ソン)小学校といいます。 今から6年前に建てられました。現在生徒は、全部で約100人います。

今ベトナム全土の人口は8100万人。ハノイ市の人口が300万人、そしてホーチミン市はその2倍以上の700万人が住んでいるといわれます。この中にはもとはメコンデルタに住んでいて、洪水で家や田んぼを流され生活に困窮して、やむなくホーチミンのような都会に出て行き、最初はゴミ拾いなどの仕事しかないような、まさに最低限の生活を送っている人たちが数多くいます。

夕方になると今でも、サンダルも履かずにハダシで、貧しいみなりをした人が、左手に大きなビニール袋、右手にヒバシを持って道路のゴミを漁っている光景を良く目にします。彼らはその集めたゴミをまた別の所に持って行き、日本円にして5円・10円単位で現金に換えて、ようやくその日の食を得ているような状態なのです。

そういう彼等にももちろん家族があり、子供もいます。子供たちもまたゴミ拾いをしたり、宝クジを売ったりしています。しかし何といっても最大の問題は、地方から流れて来た彼ら両親が戸籍がないために、その子供たちもまたこのホーチミン市に戸籍が存在しないことです。

子供たちが通学年齢に達した時に直面する問題は、地方から出て来てホーチミン市に戸籍のない子供は、公立の小学校には通うことが出来ないということなのです。学校教育を受けていない子供は、話すことは出来ても満足には字も書けないし、いわゆる「読み・書き・そろばん」の初歩的なレベルも身に付けることが出来ません。

成長しても満足な教育を受けていない子供たちは、将来大きくなってもまともな仕事に就くことも出来ないので、そういう子供たちの大部分が悪事に手を染めたり、非行に走ったりするというパターンになります。

そういう現状を近くで見て、「このままではいけない。何とか自分たちの力でそういう子供たちにまともな教育を受けさせてあげたい!」と、同じカソリツクという共通の信仰を持つ2人で6年前に創り上げたのが、このSaint Vinh Son小学校なのでした。

ここに通う子供たちは無料で授業が受けられますので、子供を学校に通わせるなど今まで考えもしなかった貧しい家庭の親が、自分の子供をようやく通わせることが出来るようになり、今では3つある教室にあふれるほどの生徒がいます。

最近はこの地区の人民委員会も、この施設の存在の貢献を認めてくれるようなになり、ここで勉強した生徒たちは公立で勉強した生徒と同じ扱いをしてあげるということになり、公立の小学校の卒業試験への参加も認め、それに合格すれば公立小学校を卒業したものと
認めてくれるようになりました。

しかしここで教えてくれているベトナム人の先生はボランテイアではなく、当然彼等には毎月給料を払っているのですが、ベトナムの政府からも日本の団体などからも援助などは一切なく、ここで掛る経費のすべては、FさんとOanhさんが2人だけでやりくりしているので
した。Fさんはそのために一年のうち3分の2を日本で働いていて、 その給料をすべてこの施設の維持に充てているということです。

この施設を訪れる前にOanhさんに、「せっかく日本から知人が訪 問するので、子供たちが喜ぶものを何かプレゼントしたいのですが、何がいいですか?」と聞くと、「9月になると新学期が始まりますので、子供たちは学用カバンが一番喜ぶと思います」ということなので、一個100円くらいのカバンを100個ほど買って、生徒みんなに上げることにしました。

そして当日その小学校を訪問することになり、我々が教室に入ると生徒みんなが教室の中でさっと立ち上がって挨拶してくれて、まず歌を唄って迎えてくれました。日本から来たみんなが挨拶をしたあとそれぞれ自己紹介をして、ベトナムと日本のことをしばらく話し、 そして生徒たち一人・一人にみんなでカバンをプレゼントすると、 みんなこころから喜んでくれました。

教室の中の一人の生徒に「将来は何になりたいですか?」と質問すると、「いままで学校に行けなかった僕が、今ここでこうして勉強出来るようになりました。将来は僕も社会の役に立てるような仕事をしたいです」と、明るく答えてくれたのが大変印象的でした。そして別れる時、みんな遠くから姿が見えなくなるまで、いつまでも手を振っていてくれていました。

春さんは1997年春よりホーチミンに駐在しています。今ではすっかり現地の人となって、見分けもつかなくなっています。春さんに質問や相談があればメールをお送りください。
info@te-campus.com ※件名を「春さんに質問!」にしてくださいね。




「BAO(バオ)」というのはベトナム語で「新聞」という意味です。
「BAO読んだ?」とみんなが学校で話してくれるのが、ベトナムにいる私が一番嬉しいことです。

■ ■ 今月のニュース 「 ヘルメット未着用者・取り締まり強化 」 ■ ■ 

ホーチミン市交通警察室・副室長によると、ヘルメット着用義務路線を通過するバイクに対して、今後24時間体制で検問を行い、ヘルメット未着用者(同乗者も含む)に対しては強制的に引き返させ、ヘルメットを着用していない場合にはその先へは行けないように検問体制を強化することになったという。

今回交通警察では、これまで以上に市民のヘルメット着用に力を入れており、今回取締りを3段階に分け一気に市民のヘルメット着用に関して意識改革を促す計画である。

それによると7月下旬の週までを通知期間とし、新聞・ラジオなどでヘルメット未着用時の危険性を示し、市民にヘルメット着用の義務を呼びかけるとともに、ヘルメットなしではその先に行けず、引き返させるとする今回の取締り方法を説明し、市民に周知徹底させる予定である。

さらに8月初旬までの期間を警告期間とし、各取締り地区の交通警察、 公安警察を動員し、市内または郊外からヘルメツト着用義務付路線へ向かうヘルメット未着用に対しては、強制的に引き返させる措置をとるが、罰金などの処分は行わない。

そしてそれ以降からが実際の施行期間とし、ヘルメット未着用バイクを発見次第、罰金処分とともにバイクを強制的に引き返させる。もし2人乗りで1人が着用、1人が未着用の場合は未着用者をバイクから降ろし罰金処分し、バイクも引き返させる措置を取る。

通常交通警察の反則切符の記入にもかなりの時間をを要するため、検問地点での渋滞が予想される。また検問所付近には、ヘルメット販売所を設置する計画や、取締り当初に限ってはひどい渋滞が発生した場合には検問所を一時的に開放することも視野に入れているという。

ホーチミン市ではバイクでの事故死傷者が毎年1000人以上出ており、そのほとんどは頭部の負傷で、命を落とすか重症を負っている。

(解説)

今までベトナムでは3度ほどこの「ヘルメット着用義務」の通達が出されましたが、市民も本気にせず、交通警察も本腰を入れて取締りをしなかったので、しばらくするといつの間にかウヤムヤになって煙のように消えて行きました。しかし毎年増えるバイクによる交通事故の死傷者の現状を見て、今回は政府もやっと本気になって事故対策に取り組み始めたということでしょう。

しかしこれはあくまでも事故対策であって、このベトナムでの交通事故の直接的な原因である「ベトナム人の交通ル―ルの遵守の欠如」が改善されない限り、なかなか事故は減らないでしょう。信号無視・一方通行の逆走・割り込みなど当たり前が、今の状態ですから・・・。


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