アオザイ通信
【2004年5月号】

ベトナムの現地駐在員による最新情報をお届けします。

春さんのひとりごと

<トリインフルエンザ終息宣言・・・・?>

 3月30日、ベトナム政府は全土でのトリインフルエンザの終息宣言を出しました。といってもトリインフルエンザ発生の根本的な原因を突き止めたわけではなく、またこの病気に関しての本質的
な問題が取り除かれたわけでもなく、ただここしばらくはニワトリにも、人にも感染者が出ていないというだけのことです。

 ベトナム政府としては、今まで凍結していた国内の家禽の流通と、外国からの観光客や外国企業の誘致などに、今大きなマイナスイメージとなっている「トリインフルエンザ」というのろわしい言葉を、とにかく早く捨ててしまいたかったのでしょう。事実ベトナムの旅行会社には、ベトナムを訪れる予定の観光客のキャンセルが続き、昨年比で観光客が半減したところもあったといいます。

 ホーチミン市内に暮らしている我々にとっては、市内にはニワトリの肉やタマゴの売買の許可がすでに出ているのですが、レストランや普通の店が鶏肉やタマゴを買いたいと思っても、値段が以前と比べて大変高いので、それらの仕入れを控えている状態が続いていて、今だにどこででもニワトリの肉やタマゴが食べれるわけではありません。

 しかし実際にニワトリを大量に飼育していた農家にとっては、今回の出来事は深刻な事態になっていたようです。そういう一軒の家をジャーナリストのMさんと一緒に訪ねて来ました。場所はカンザーに行く途中にある、ニャベーという地区の農家。ここではふだん一万羽のアヒルを飼っていて、毎日多量のアヒルのタマゴと肉を出荷していました。

 その住んでいる家もベトナムの田舎の家にしては、レンガ造りのキレイな家を建てれるくらい、一日の利益だけで(売上ではなく)約4,000円〜5,000円くらいあったといいますから大したものです。しかし今まで順調に経営していたこの仕事が、ことしのトリインフルエンザで壊滅しました。

 ここのアヒルも実際にインフルエンザに罹っていた兆候は無かったのですが、とにかく政府の命令ですべてのアヒルを遺棄しないといけなくなりました。それに対しての政府の補償は、アヒル一羽につき、わずか15,000ドン(約100円)。今までアヒルを大きく育てるまでに要したエサ代には、とうてい充当出来ないような低い金額です。

 そしてそこの主人は、前途を悲観して薬を飲んで自殺を図りました。しかし幸いにも一命は取り止めたそうです。私たちが訪れる一日前にMさんが訪れた時には、まだその時にも落ち込んでいて、写真はおろかあまり話したくない状態だったようです。2度目に訪れた時には、本人はいなくておばあさんがいましたが、そのおばあさんがいろいろ話をしてくれました。

 「息子さんはいまどこ?」と聞くと、いつまでも落ち込んでいても仕方がないので、また仕事を始めるためにその準備に出掛けているという答え。おばあさんと話している時にふとテーブルの上を見ると、ガラス板の下に奥さんと小さい男女2人の子供の写真。「これは誰?」と聞くと、やはり「息子の嫁さんと、その2人の子供だよ」と言う返事。

 そして外に出て、すぐそばにある今までアヒルが飼育されていた広い小屋を見ると、中には何もなくてただ風が吹きぬけているだけ。小屋の中には、卵の殻が到る所に散乱しているし、ある場所は地面が掘り繰り返されているので、おばあさんに「これは何?」と聞くと、やはりこの地面の下に
息子さんが自分で穴を掘って一部のアヒルを埋めたとのこと。

 おばあさんと別れる時に、「またこんど来ますから、息子さんには元気を出して、また新しい気持ちで仕事を頑張るようにと伝えて下さい」と挨拶をして2人でホーチミンに帰ったことでした。

春さんは1997年春よりホーチミンに駐在しています。今ではすっかり現地の人となって、見分けもつかなくなっています。春さんに質問や相談があればメールをお送りください。
info@te-campus.com ※件名を「春さんに質問!」にしてくださいね。



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